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ナンニ・モレッティ監督『息子の部屋』バスはゆっくりと遠ざかって行く

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幸福な家庭が、息子の死によって解体され、その苦悩と再生を、あたたかな眼差しで描く――、とよく紹介されています。カンヌでパルムドール賞を受賞した映画なので観た方も多いかと思われます。2002年イタリア映画。父親ジョバンニ(ナンニ・モレッティ )、母親パオラ(ラウラ・モランテ)、息子アンドレア(ジュゼッペ・サンフェリーチェ)、娘イレーネ(ジャスミン・トリンカ)、息子の恋人アリアンナ(ソフィア・ヴィジリア)。

幸福な家庭とはなんの苦もなくすでにそこにあるような、絵に描いたようなそれではなく、たまたま幸福な家庭を維持できていた、偶然の家庭のことを指しています。幸福へと努力を惜しまない家庭ですらも、いつでも偶然の流れに押し流されてしまう条件を抱えています。たがいの心のヒダという襞までは手繰りきれない、家庭とは、知らない他者の集まりであることが、その理由の1つとして挙げられます。

この映画はまずそこから描かれていました。手繰りきれないさまを扉で表現しています。扉から扉へと主人公の父親を歩かせました。この家は扉が多く、どの部屋に行くにしても父親は扉を開けて出る、そしてまた扉を開けて出る、というふうなアクションが求められています。自らのアクションなしに扉の向こうがわの部屋へと辿り着くことができないのです。カメラはその父親の背中から、扉が開け放たれて行くさまを映し出していました。

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それこそ一見して絵に描いたような幸福な家庭に見えますが。しかしそれは知らない他者の集まりである家庭を築き、維持するために、地道に努力してきた結果であることが分かります。息子が死んだあと教会はその死の理由として盗人の例を引きました。盗人が入ることが分かっていれば、ものを盗まれることはないと。つまり、いつ盗人が入るのか私たちは知ることができない、イコール神のみぞ知る、息子の死を全面的に神に委ねてしまおうというわけです。
「盗人とは、なんという言葉だ」、と父親は激怒しました。家庭を維持するために地道に努力してきた者にとってみれは、とうてい受け入れがたい、ものわかりが良すぎる境地です。神の一言で、チャラにできるほど、家庭への心の砕き方は生半可ではなかったということです。

脚本上ではこういったバックグラウンドは場面を伏せて、ほとんど描いていません。扉から扉へと父親を歩かせること。息子の学校での盗難騒ぎで、息子は嘘をついていたこと。娘の物事を捉える感覚が、少しずつ親のそれとはズレて行くこと、などなど、ごくわずかです。表面的には、ほころびのない幸福な家庭として映画は作られています。

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それが息子の死によって事態は急変します。
じつは家じゅうの皿やカップには欠けがあること。父親のお気に入りのポットにいたっては、壊れているものを継ぎ目が見えないくらいに丁寧にボンドで繋ぎ合わせて使っていたこと。「でもこれは壊れているのだ」、と父親はポットを握り潰してしまいます。

この父親は頼りになる精神科医ですが、息子が事故に遭う日、息子との約束があったのに、急患が入って(ジャマが入って)約束を果たせなかったために、息子は死んでしまったのだと考えるようになります。急患だった男に辛くあたるようになります。他の患者に対しては話を聞いていても、うわの空だったり、逆に感情的になってしまったり。「患者との距離がなくなったのだ」と父親は言っていました。もう精神科医はできないとも。父親は、辞めてしまいます。
母親との仲もギクシャクし始めます。娘はイラついて悲しみに暮れています。家族はバラバラになりかけています。
と同時に、突然に永遠の不在となってしまった息子を、こちら側へと引き寄せたい気持ちが1つに固まってゆきます。もう一度息子に戻って来て欲しい。教会で取り仕切る、あの亡骸と受け入れがたい説教とではなく、まだ生きている息子に戻って来てもらって、せめて生身の息子にサヨナラを言わせて欲しい。

映画はここで、独特な展開をし始めます。
女の子から手紙が届きます。

どうやら息子は、この女の子に好意を抱いていた、らしい。女の子は息子の死を知りません。母親はまるで息子からの手紙のようにして女の子の手紙を読みます。この子に会いたいと母親は望むようになります。後日、女の子が訪れました。息子とは一度会ったきりだと、女の子は説明しました。

この女の子の側から語られる、家族の知らない息子の姿を、新たなそれとして家族はみんな聞き入っています。けれど女の子はボーイフレンドと一緒で、ヒッチハイクしている途中なので、もう行かなければならない、と言います。家族みんなで女の子と、ボーイフレンドを、車で送ってやることになります。そこまで、あの大通りまで、と言いながら。けっきょく女の子と別れられなくて、一晩車を走らせて、国境近くまで送ってしまいます。

夜が明けて、朝になりました。
女の子とボーイフレンドは国境を越える観光バスみたいな大型バスに乗り込みます。家族は女の子に、「さよなら」を言いました。
カメラは、車高の高いバスの中から、家族を少し見下ろす位置にあります。バスの心地よい揺れが、カメラを心地よく揺らしながら、バスはゆっくりと遠ざかって行きます。父親は一度だけふり返り、そのふり返り方が、なんとも悲しげで、「別れたくない」、とでも言いたげな・・。ゆっくりと遠ざかって行くバスの窓からその姿が小さく見えました。

息子はバスに乗って家族のもとから旅立って行きました。
だけどカメラはバスの方にあるから、去って行くのは息子ではなく、家族の方です。息子が家族を見送っています。ぜったいに欠けない皿もカップもないけれど。それらを手にした記憶は残ります。バスの内と外に記憶が残ります。その記憶を繋げ合って沈殿してゆくのを待つしかないのでしょうね。いや再生などせずとも、繫げ合っているだけで良いのではないかと思いました。  

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