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『息子のまなざし』 ダルデンヌ兄弟

息子のまなざし


息子のまなざし
受け入れるよりほかに仕様がないのだ。
息子は死んでしまった。
目の前にいるのは息子を殺した少年だった。
息子の死と、加害者の少年と、そして受け入れ難い自分の人生と。
それらを皆、逸れることなく受け入れねばならない。苦渋の選択だ。

2002年ベルギー=フランス映画
カンヌ国際映画祭(主演男優賞・エキュメニック賞特別賞)/ファジル国際映画祭(グランプリ・主演男優賞)/ベルギー・アカデミー(最優秀作品賞・監督賞・主演男優賞)

(あらすじ)「少年犯罪」をテーマに、人間の尊厳とは何かを問うダルデンヌ兄弟による問題作。オリヴィエが勤務する職業訓練所に、彼の息子を殺害した犯人の少年が入所。少年を前に複雑な思いを秘めるオリヴィエの葛藤と苦悩を描く。(公式サイト
 

ドキュメンタリー映画のようだった。
カメラは父親オリヴィエ(オリヴィエ・グルメ)の動きを、おもに背後から首筋の辺りから接近して追いかけ撮り続けている。オリヴィエだけなく、全体的に寄りが多く、擦りつけるようにして印象づけている。外側ではなく内側に入って来て欲しいと映画は求めている。町や訓練所や駐車場などの人物が立つ場の風景(=条件)から、人物そのものの風景(=魂)へと降りて来て欲しいと言っているのだ。カメラは接近して人物の動き、その人の「空気」を映し出そうとしている。空気の流れが魂の揺れのように見える。もう少し動きが速ければ、あるいは遅かったとしたら、この魂の揺れは見えなかったかもしれない。
ほんとうのドキュメンタリー映画であればこの揺れはなかなか出せないのではないか。ドキュメンタリー映画のようでありながら創作したものの利点として、1カット単位で計算して流れを作ることができる。その利点を最大に利用した、意欲的な作品だった。

とはいえ、演技してること、それをカメラで撮っていること、これらを意識させずに、まるでドキュメンタリー映画のようにして、リアルに映画を作ることは、ほんとうに可能だろうか。
ダルデンヌ兄弟はそれをやろうとしていた。その意味で意欲的な作品だった。

しかし肉迫したとしても(最大に利用したとは思うが)、テーマが1つに絞られ、カットがバラバラに散ってしまわない限り、全体は中心へと向かって行くわけだから、ドキュメンタリーであろうと何であろうと、ストーリーは展開されて行ってしまう。一見して玄人好みの映画だけれども、フツーのエンタメ映画と、じつはやってることは同じではないかと思うのだが…。

現実というのは1つのテーマとしてフォーカスできないし、カットはバラバラに散っている。それをそのままに撮るのがドキュメンタリー映画なのではなくて、「映画」と付くだけあって、そこには編集作業が待っている場合もあるわけだ。強く言えば「やらせ」。編集した瞬間に「やらせ」になる。だから「リアル」は難しいと思う。なにを「リアル」と定義するかによる。辛口に言えば映画など観たこともないような人が観ても、この映画は他とは違うなと思わせる玄人ぶりなのだが、たとえばCG多用の効果音ガンガンに鳴っている、一見して軽薄そうに見える映画であっても、とてもリアルに作られている映画もあるだろうし、その逆もあるだろう。ダルデンヌ兄弟は狙い過ぎている、作り過ぎている印象だった。

ついでに、もう1つ指摘しておくと、この脚本は巧妙に作られていた。
フレームの外から突然に元妻が入ってくる。これは監督さんがほのめかしているように、観客を厭きさせずに映画を進行させる努力をしているので、突然に入って来るのもそういった効果が期待できるが、私が指摘したいのは別のことで。

あれは息子を殺した少年なのか、少年と接触して何をしようとしているのかと元妻が言う。
この元妻は、それより前に、再婚すると、新しい子どもが生まれると、報告している。明るい印象で、なんでもないふうに語っている。
ところが元夫が息子を殺した少年のことを伝えると状況は一変し、心の底には拭い去れない悲しみを抱えたままだということを露呈してしまう。ただフレームのなかで動いてばかりいる寡黙な元夫の心をも、ここで同時に表現している。元妻のセリフが元夫のセリフなのだ。そして元妻が言う。あなたはどうするつもりなのかと。元夫が答える。自分でも分からないと。自分でも分からないけれども息子を殺した少年のことを追わずにはいらない「私」を観客に分かるようにセリフで説明しているのである。観客に分かるようにと説明している箇所がとても多い。Aの動きをBが補足し説明している。1つのテーマとしてフォーカスするため、バラバラのカットをまとめる作業をしているのだ。できれば説明などせずに映像だけで分からせてくれた方が良いと思うのだが、バラバラでもいいと思うのだが、カメラは人物の魂の揺れを追うことに専念してしまい、ストーリーの根幹にかかわる部分では、ほとんどの場合セリフで説明し、まとめてしまっている。
ひょっとしてダルデンヌ兄弟は、ストーリーが邪魔なのではないか? などと思ったりした。
観客に分かってもらうために余計な説明を付け加えなければならないので、それこそ「やらせ」で作品を汚してしまうため、巧妙に隠しながら馴染ませながら映画を進行させて行くけれど、そこにはなんとなく嫌悪感が見え隠れ、作った話よりも根っからのドキュメンタリー好きなのか、どうなのか、ある意味、どっち付かずの作品として仕上がっている、とも言えるかもしれない。

ダルデンヌ兄弟と主役のオリヴィエ・グルメとは親交が深く、その名を「オリヴィエ」としてまで彼を念頭に置いて映画を企画したらしい。DVDの後ろにインタビューが入っていた。

「(オリヴィエ・グルメ)この映画は僕の体を見据えて書かれた。俳優にとって体はとても大切だ。最初のセリフを言う前に体はそこにある。体がなければ言葉に意味はない。言葉は肉となるんだ。本音は人を正直に、そして力強くする。」


背中だけで演じられるのが理想だと言っていた。
まさに映画は背中を中心に映していた。

けれども、この映画を思い出すとき、真っ先に思い出すのはオリヴィエではなく、加害者の少年フランシス(モルガン・マリンヌ)の佇まいの方だ。本物には勝てないのじゃないかという気がしないでもない。悲しみに貫かれたフランシスの表情が印象的だった。どこを見ているのか視線が定まらない。小首を傾げて何かを言うとき、こちらの様子をつねに窺っている。「受け入れてもらえるのだろうか」という不安に、あくまでも子どもらしくだが、傷つき満たされてしまっている。
この「受け入れてもらえるのだろうか」は、この映画のテーマに直結している。息子を殺した少年を被害者の父親は受け入れることができるのか。受け入れるかどうかよりも前に、加害者の少年の悲しみが全編を覆ってしまった。それはフランシスの存在感の強さがそうしているのだと思う。フランシスだけがドキュメンタリーだったのかもしれない。

「(オリヴィエ・グルメ)“分からない”状態を演じることは難しい。だって、分からないのだから。どう演技すればいい? “何も演じないこと”も1つだろう。怒りでも、復讐でも、赦しでもないもの。何なんだ?(略)
互いに打ち消しあう、2つの力を思い浮べるんだ。その2つの力が登場人物を動かす。お互いに打ち消しあう逆方向の力だ。初めはコントロールできない復讐の欲望がある。彼を殺したいと思う。自分ではどうしようもない感情だ。その欲求に屈した瞬間から、彼を観察し始める。野生動物が獲物を狙うように、彼を観察する。襲う絶好の時を待ちつつ、彼の周りをうろつく。自分をコントロールし、すぐには襲わない。復讐の時が近づいて初めて自分の人間性に気づく。復讐心に動かされていた時には見えなかったことだ。打ち消しあう力。」


もしかすると、こんなものではないと、現実の当事者たちは癒されることとは反対に、怒りさえ覚えるかもしれない。日本でも似た事件がいっぱいある。新聞で読む残された家族の言葉は、この「打ち消しあう力」に、のたうちまわり、火がついた目を、ようやく伏せて、どうにか留まっている。
一方、映画はどうか。愛が生まれる、感動した、傑作だと言うわけだ。
映画は現実そのものであることは難しいにしても、少なくとも現実の友であるべきだと思う。良いことばかりではなく悪いことも含めて。インタビューを見ても分かるけど、ダルデンヌ兄弟も、それからオリヴィエ・グルメも、とても努力して作ったのは伝わってくる。伝わってくるけれども、たとえば私が当事者だったら、この映画では全く不足していると思うだろう。どうにもならない私の悲しみが、どこにも映っていないと思うだろう。静かな魂が揺れている。現実は燃えて私にも手に負えない。すでに焼け焦げてしまい受け入れるだけの形が残されていないかもしれない。受け入れるよりほかに仕様がないとしても。

この映画は、加害者の少年の悲しみは描いた。
彼の悲しみを理解して欲しい。そちらの方向へ、最初から向かって行ったと思う。

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