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石川達三『蒼氓』芥川賞全集1~第1回受賞作

青春の蹉跌 (新潮文庫)

昔々、昔。温泉宿にて住み込み女中のアルバイト。薄暗い廊下、つきあたりの暗幕をめくれば4畳半ほどの個室があり、布団とこたつでいっぱいになるその部屋のはしっこにごろりと横になって、石川達三を、たしか初めて読んだと記憶しています。
もっとも記憶は曖昧で、それ以前だったような気もするし・・・、だけど私の記憶に残されているのは、温泉宿の宴会場から流れてくる壁や廊下に染みついた酒と食いもんのにおいに「まみれることがなかった小説」としての、彼の幾つかの作であったように思います。私は何冊か読んでいます。読むということはどこか良いところがあったのだろうか。にもかかわらず、それらはみな「まみれることがなかった」。まみれない筈はないと確かめるみたいにして読み続けたのかもしれません。いまとなってはナンとでも言えるけど。

今回、芥川賞全集を読んでみようと思いたち、ちょっとずつ買い集めている途中ですが。
その第1巻ショッパナに、石川達三『蒼氓』が出てきます。じつに何十年ぶりかの再会で、年月とともに読後も変わってゆくだろうかと期待してページを開いてみましたが、わりと長い小説で、終わるかなと思いつつ終わらないという。出だし、移民の話だなと分かった時点で、船に乗り込むか乗り込んで船が出ていくか、その辺りで終わるのだろうなと見当を付けたとおりにその辺で終わる小説です。そこまでが長くてなかなか終わらない。そこまでしかないのだけれど。
ブラジル移民の話ですけど。平たく言ってしまうと、ド田舎から集められた人びと、かくかくしかじかの各自の事情を抱えた人びと、彼らは移民となってブラジルへ向かうまでの様子を活写した小説でありますと、ご紹介できると思います。
マジメな書きようで。マジメというのは堅実な人が書いた小説だなぁと思わせる、ソツのない書きようで、つねにバランスに気を配り、読みどころを心得て書かれた小説で、引っかけどころも計算ずくであろうかと。

まどろっこしいのでズバッとやってしまいますと、
石川達三の目線が俗でいやらしいのです。洗練されていないド田舎の人びとを俗な目線で見つめて読者が面白がる、興味を示すだろうと予め計算している、その計算式をもとに文を紡いでゆくのです。これがまた、いいところで「文学」に踏みとどまる、笑。
たとえ引き合いに出したとしても、さらにその先、だからその人びとが、「どうなのか」。どうなのかに行き着いていないように思われます。肝心な「どうなのか」。

そういえば橋田寿賀子先生の記事としても書きましたけど、あちらもブラジル移民の話でしたが、もうそれだけではドラマとしても小説としても、ちょっと苦しいところにまで時代は行き着いてしまいました。設定だけで「面白いでしょ」と引っぱっていくにしては、ちょっと苦しいのです。石川達三が一生懸命に活写しようとしてマジメに文を紡いだところで、橋田先生的には「内側にどれだけのドラマを埋め込めるのか」、こちらの小説としては「だからその人びとがどうなのか」、この部分にこそオリジナル、時代を経ても色褪せない、けっして死なない登場人物たちが時の間に織り込まれてゆくのではないでしょうか。

石川達三の小説は、まみれることがないと思われます。
人称には関係なく、どう書かれていたとしても、なにかこう遠くから外側から、お上品にフンベツして書いている感じで、「どうなのか」まではほど遠く、ただ時代性というか、これは書いておかないと文学としてこの時代を、というような、文学というよりもジャーナリズムに近いと思われます。
そこで思い出すのはまた出してしまうけどゾラですね。
石川達三も好きで読んでいたらしい。うしろの年表にゾラの名前が出ていたけれど、同一人物かしらん。ともかく、ゾラの場合も、ジャーナリズムに近いところでやっているふうだけど、そこから文学まで高めているところがやっぱり凄いんです。達三さんが出してきた愚かに見える人びとだって、ゾラは吐いて捨てるほど山積みにして小説内を走らせてはいるけれど、そこに「面白いでしょ」的な裏の心持ちというか本音というか、そういう気持ちはまったく切り離されていて、ゾラが言っている、これは実験なのだという、あれはダテじゃなくて、ほんとうにそうなんだと思います。こういう人物がいる。それに社会的なジャッジを加えるのは社会なんです。これはどういうものか(どう理解、受け止めたらいいのか)を分析し判断するのは評論家の仕事であって、真っ向勝負の小説家がこれをやってしまうと、やる前から決着はついてしまいます。評論家の勝ちです。わざわざ小説など読まなくてもいいような・・・

と思いつつ、うしろの年表を見てみますと、
昭和5年(1930)石川達三25歳のとき、仕事を一時退職して、退職金を渡航費とし、「(引用)神戸より移民船ら・ぷらた丸に乗り、ブラジルに渡航する。サンパウロから汽車で15時間の奥地サント・アントニオ農場に一月を過ごし、サンパウロに一月をおくる。結婚の名目で、八月末に帰国する。「国民時論」に旅行記を載せ」ると。
昭和7年には国民時論社を退職しています。そして同年『蒼氓』の初稿を書いて、翌年さらに改稿し、「改造」の懸賞小説に応募します(選外佳作)。昭和9年『蒼氓』の第三稿。昭和10年同人雑誌「星座」に『蒼氓』を発表。その年の第一回芥川賞を受賞と、こういう流れになっています。

この旅行記というのはつまり自身が体験したブラジル渡航時の内容かしら。これはどういうものかと1度書かれているかもですよ(未確認だけど)。
といいつつ、何年も移民としてともに汗を流したというわけではなく。結婚の名目で早々に戻られたそうですから。それはともかく注目すべきは体験したことが小説として書きなおされている点であろうかと。船内外で感じた石川達三の声がまるで聴こえてくるかのような・・・、眉ねをよせて見渡しているさまが、見えてしまうかもしれない。

小説の書き方はマジメで客観的に書かれようかとそちらへ持って行こうとしていますが、ブラジル移民よりも石川達三のフツーの感慨の方がより強く言外に押し出されていて、けっして「まみれることがなく」、その人びとは「どうなのか」まで立ち入ることもなく、設定としてのブラジル移民をソツなく読みやすく、時代の求めに応じて書かれているかのようでした。

その意味では安心して読める小説だとも言えるでしょう。
読者とともに「まみれることがない」のだから。

私としては、あの女中部屋に染みついたにおいの方が、よっぽど現実を超越し、まばたきの間にさえ流れ込むケモノじみた現実にこそ気圧されたのではなかったか。

辛口な、記事となりました。
腐す記事は(あまり意味がないので)書く気もないけれど、これは避けて通れないでしょう、笑。

以下、この全集から、適当に抜き出しておきます。

第一回芥川賞選評 昭和10年上半期
受賞作「蒼氓」石川達三
候補作「草筏」外村繁/「故旧忘れ得べき」高見順/「けしかけられた男」衣巻省三/「逆行」太宰治

【久米正雄】
石川達三氏の「蒼氓」は、心理の推移の描き足りなさや、稍々粗野な筆致など、欠点はハッキリしているが、完成された一個の作品として、構成もがっちりしているし、単に体験の面白さとか、素材の珍しさで読ませるのではなく、作家としての腰は据っている。いい意味で通俗的な手法も心得ており百四五十枚を一気に読ませるという作品は近頃そう沢山はないと思う。
新しい作風、新人の作品というものでないのが心残りだが、いささかの危けも感じさせない作風が今後の制作に相当期待を持たせる。

【佐藤春夫】
僕は本来太宰の支持者であるが予選が「逆行」で「道化の華」でないのは他の諸氏の諸力作が予選に入っているのに比べて大へんそんな立場にあると思う。「逆行」は太宰くんの今までの諸作のうちではむしろ失敗作の方だろうと思う、支持者の僕でさえ予選五篇のなかでは遜色があると思う、尤もこれを選んだ瀧井君のリアリズムには「道化の華」は同感されなかったのだろうと思う。(略)当選作の「蒼氓」は素材の面白さの上に作者の構成的な手腕のうまさも認めなければなるまい。

【川端康成】
瀧井氏の本予選に通った五作のうち、例えば佐藤春夫氏は、「逆行」よりも「道化の華」によって、作者太宰氏を代表したき意見であった。
この二作は一見別人の作の如く、そこに才華も見られ、なるほど「道化の華」の方が作者の生活や文学観を一杯に盛っているが、私見によれば、作者目下の生活に厭な雲ありて、才能の素直に発せざる憾みあった。

【山本有三】
石川君の作品は構成も立派だし、しっかりもしている。

【瀧井孝作】
石川氏の「蒼氓」は、星座と云う雑誌の四月号をみた折り認めて、ぼくは参考カードに書き込んでおいた。そして星座七月号の「心猿」と云う作もこんど読んだ。この人のもの、ぼくは力量を大いに買うが些か洗練に欠けるうらみがある。手堅い点では申分ないけれど。(略)
太宰氏の「逆行」はガッチリした短篇。芥川式の作風だ。佐藤春夫さんは太宰氏の「道化の華」を推称されていたが、この作は川端康成君が少々もの足りないと云っていてぼくも逆行の方のガッチリした所を採った。

【佐佐木茂索】
之は余計な事であるが、委員の誰一人として石川達三氏に一面識だもなかった事は、何か浄らかな感じがした。

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