スポンサード リンク

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサード リンク

芥川賞全集2~第9回『鶏騒動』半田義之


「乃公(おら)のお父っさんは、また何故ロシア人なんかに家を世話したのだっぺ、乃公の異人嫌いは百も承知のくせによ。おーよ、ぶるぶる、朝鮮人だって、ぶるぶる、気に食わない」(芥川賞全集2-290p)

乃公、この婆さん、食えない人物。魚屋が高価な蟹を売りにきて、買えなくて、それでどうしたか。実の妹の家(婿とりで分家した先)に売りに行けと魚屋を促がし、頃合をみて偶然をよそおい台所に入って、「あれまあ、良い蟹だこと」。妹の家でも高い蟹だからできればやりたくない。婆さんは粘って粘って、いったんは自分の家に戻ったりして、晩御飯の時間に舞い戻ってきたりして、まんまと蟹をせしめたという、かなり食えない婆さんです、笑。

「卵を売っておくれ。私は百姓さんの、おおきな卵が大好き」
「卵は無いよ。ないと言ったら、あるものか」
婆さんは立ち上がった。そして、
「ほんとにしゃあしゃしい野郎だ。異人とは、こういうものだ。卵は五万とあらあ。なんで売るものか」(同・293p)

異人のドナイフは国に帰れない事情があるらしく、ひとりぽつんと暮らしています。婆さんの家の鶏の卵を売って欲しくて、邪険にされても懲りずに婆さんについてまわります。
ある日、婆さんは名案を思いつきました。お金に困っているようすもない、それどころか大金を所持しているらしいドナイフに、卵を高く売りつけて儲けてやろうという魂胆です。婆さんの家の鶏は若くなく、キーキーやかましい婆さんのせいで、人間であれば神経性胃炎にでもなっていそうな気の毒な(笑)鶏なのですが、婆さんはとにかく産ませてやれと、これまで以上に精神的に鶏を追いつめてゆき、しかもドナイフには、産み立ての卵だと見せかけるために、厚かましい小細工までして騙くらかしてゆきます。
かくして婆さんとドナイフとの間を、卵とお金が何度も行き交うことになりました。ドナイフは食事時以外にも婆さんを訪ねて来るようになります。以下、長いけど、抜き出し↓

ドナイフは、婆さんに限らず、誰の自由にでもなる人間なのである。婆さんはそれが気楽で良いと考えていた。ドナイフがなにか話しかけてきても、気が向かねば黙っていても良い。また言いたいことは遠慮なく言える。ドナイフが傍にいることによって、少しも束縛を受けぬのである。自分が退屈で困る時は話しかける。その返事が見当違いであろうと、期待に添わなくとも、失望もせず、気にも掛からない。有っても無くても良い相手だけに、責任も負わされず、暇つぶしには持ってこいであった。それと共に、ドナイフは婆さんの鬱憤の晴らし場であった。親身に話しに乗ってくれる相手を、婆さんは家内にも近所の人の間にも一人も持っていない。というより、婆さんにとっては皆な敵だ。婆さんは誰の顔を見ても、胸糞が悪くてしようがないのだ。その度に、考えつくだけの悪口を言ってみたが、独り言では、腹の虫がおさまらない。かあ子やおちゃ子につらく当ってみても、そんなことにへこむ子供たちでもない。なおむかむかするばかりである。そんなとき婆さんは、ドナイフをつかまえ、自分の気にいらぬ人の悪口を、悪人だ盗人だと聞かせた。口汚く罵った。ドナイフは黙って聞いていた。ときどき驚いたように微笑する。それでも婆さんはまあ気を晴らすことが出来た。(同・296p~)

「お前はいつロシアに帰るんだ」
と訊いた。
「私は帰らないよ」
とドナイフは言って、意味あり気に微笑んだ。
「みんな自分の郷里に死にに行くじゃないか。菩堤寺はロシアにあるのだっぺ」
「私はロシアに帰れないよ。帰れば殺されてしまう」
「おー、恐ろしい。お前は悪人なんだね。なんの悪いことをした。乃公はまた国に帰れないというから、お父っさんの勘気に触れたせ、家を飛びだした未熟者かと思っていた。人殺しをしたのだろう。異人は恐いよーお」
婆さんは立ち上がって、ドナイフから離れ去ろうとした。
「私は悪人でも何でもないよ。悪いことは鹿の尾ほどもしたことはないよ。お婆さん、それはだんだんと解るよ。日本にいるロシア人はみな国に帰れないのだよ」
とドナイフは言った。そして、
「ロシアは赤いのだよ。私は白いのだ」
とつけ足した。婆さんはまだ解せぬように、肩をすぼめてドナイフを眺めていた。婆さんの脳裡には白い玉と赤い玉がくるくると廻っている。白と赤! 白玉に赤玉! ドナイフにとっては決定的な運命である白と赤が、婆さんには二つの異なる色彩としか理解できぬのだ。白い玉が尾を引いて消え去ると、赤い玉が現われる。或いは交互に入り乱れた。そして最後には白い旗と赤い旗が二枚、規則正しく並んでいた。やや暫くして婆さんは、
「白より赤が綺麗で良いや」
とぽつんと言った。(同・297p~)

このふたり、どんどん距離を縮めてゆきます。
あとに、じんわりと、交感するような、場面が出てきますヨ。

というわけで、めずらしく話の筋を追いかけてみました。
昔話か何かのような、ちょっと身振りが大きいのですけれども、話の持って行き方からして、とても、マトモです。べつの国の者同士どうやって仲良くなっていくのか、マトモな感覚で書かれていました。
先に、双方の利益があって、行き来をするうちに、そこからハミ出す人間性みたいなものを、同時に、双方が、受け取ってゆきます。そのうちに、なくてはならない存在となってゆく・・・、という、筋書きのようです。
芥川賞の選考の場では、この婆さんの食えなさに「悪」なんて言葉が出てましたけど、たしかにこの婆さんはほんとにエゲツナイ。そして最後まで婆さんは食えないままです。
ここには理性的な、統制されたものがないです。もっと広く人間性を捉えています。他者を受け入れる幅が広いとも言えます。双方の利益を介して、この辺がとても現実的だと思いました。私は、おもしろく読みました。

※画像は楽天にリンクしています。
・Rakuten : 芥川賞全集(第2巻)
・Amazon : 芥川賞全集 第2巻

スポンサード リンク

Pagination

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

links

amazon

文学 韓国ドラマ 文学・評論 文庫新書 絵本・児童書 音楽 エンタメヘルス・ビューティー パソコン・周辺機器 ペット用品 洋書

rakuten

楽天市場 楽天ブックスTOP
楽天写真館 楽天トラベル
ホテル・旅館ランキング(全国)
楽天銀行  楽天カード
 

card

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。